弁護士ブログ
私の財産
弁護士 中村 隆
毎年12月に札幌近郊の児童福祉施設に慰問に行き始め、昨(平成26)年で12回目となった。この施設には、経済的事情や家庭内暴力等で両親と暮らすことができない幼児から高校生まで約80名の子どもたちが生活している。
約20年前、あるミュージシャン(TK)から児童施設に慰問に行きたいという話を聞き、JCの仲間と作ったバンドがTKのバックバンドをすることになった。初めて訪れた施設は木造の古い建物だった。体育館に集まった子どもたちは元気に走り回ったり、TKのオリジナル曲に合わせて紙飛行機を飛ばしたりと大はしゃぎで、子どもたちの笑顔が輝いていた。
演奏が終わり、機材を撤収して廊下を歩いていると、子どもたちが書いた家族・両親の絵が貼られていた。その中に、色彩がなかったり、父親の顔の部分だけが描かれていない絵が何枚か目に留まった。ドアの窓越しに見える部屋の中には2段ベッドがぎっしり並べられていた。体育館を走り回っていた子どもたちの日常生活・心の中を垣間見た気がして、胸が詰まってしまった。
自分はこの子どもたちのために何かできないだろうかとの思いを胸にしまい込んで数年後、事務所やRCの仲間との飲み会の席でこの思いを話してみた。皆が是非慰問に行こうと言ってくれた。その後、一緒に行こうと言ってくれる仲間が少しずつ増えていった。体育館で縁日のようなことをしたり、子供たちと一緒に餅をついたり、寿司をにぎって、不揃いだったりわさびどっさり・チョコレートをまいた海苔巻等を皆で食べたり、バンド演奏をしたり。手伝いに来てくれる仲間やその友人、よさこいソーランの団体、マジシャン、日ハムの選手、色々な方にも参加してもらった。
施設で暮らす子どもたちはたくましいが心を閉ざしている小さな子どももいる。そして皆、高校卒業とともに施設を離れる。毎年、子どもが成長する姿を楽しみにしながら、卒業後に待っている社会生活に思いを馳せてみる。訪問する仲間が増え、今年は何をやろうかと相談する。
家族、事務所の仲間、弁護士会の先輩・後輩、異業種の仲間。先輩から受け継いだものを次世代に紡いで行く「縦」のつながりと、お互い刺激し合い一つのことに参加しやり遂げる「横」のつながり。「縦」と「横」が織り成す人の輪は、私の財産だと強く実感する今日この頃である。
今年2月で還暦を迎え、最近になって漸く「これも天命なのかな」等と思えるようになってきた。こんな周回遅れの自分が「耳順う」の境地に到達できるのか心許ない限りだが、過信せず独善に陥らず弛まずに、家族の一員、弁護士、そして社会人としての職責を果たしていきたいと思う。
弁護士 中村 隆