弁護士ブログ
みんな使っている「ヤッカン(約款)」のお話
~ 知っておくべき民法改正のポイント ~
弁護士 仲世古善樹
「約款(やっかん)」。言葉として聞いたことがある方は多いと思いますが、説明するのはなかなか難しいと思います。
「約款」は、沢山の人と同種の契約をしようとする場合に、契約の内容や条件をあらかじめ一律に決めておいて、それに従って契約を締結させるその契約条項のことをいいます。
沢山の人と、同じような契約をしようとする場合に、いちいち、個別に、契約の内容や条件などを話し合ったうえで契約書を作っていたのでは、非常に大変ですし、契約した後の管理もまた大変です。そこで、全部、同じ内容の契約条項にしてしまえ、ということです。
今「約款」に基づいた契約を締結しているものはない、あるいは、今まで約款に基づく契約を締結したことがない、という方は、日本にほとんどいないでしょう。スマートフォンや携帯電話を持つとき、預金口座を作るとき、クレジットカードを作るとき、自動車保険や生命保険に加入するとき、宅急便を送るとき、引越しするとき、服をクリーニングに出すとき、電気やガスを使えるようにするとき、電車やバスや飛行機に乗るときも、皆さん、約款に基づいて契約しています。そうです、小さな字でいっぱい書かれている、冊子やインターネット画面に表示されるやつです。
「こんなの読む人いないだろ」って思ったことがある方も多いと思います。
もしかしたら、電車やバスに乗るときに「契約?」、と感じるかもしれませんが、これもりっぱな「運送契約」であり、各社、「運送約款」を定めています。例えば、どういう場合に特急料金を払い戻すのか、泥酔していたら乗せないときがありますよ、などの条件が書いてあります。
そのほか、ある宅急便会社の「宅急便約款」には、荷物の毀損については引き渡した日から14日以内に通知を発しないと責任を問えなくなってしまうとか、また、ある引越し会社の「引越運送約款」には、荷物の一部の滅失または毀損については引き渡した日から3ヶ月以内に通知を発しないと責任を問えなくなるなど、万が一のときには重要と思われる規定も結構あります。
ちなみに、プロ野球(日本プロフェッショナル野球組織、セントラル野球連盟、パシフィック野球連盟、12球団)は、「試合観戦契約約款」を定めており、観戦するときに守ってほしいルールなどが書かれています(日ハムのHPでも見ることができます)。
こんなに日常的な存在で、かつ、大変重要なものなのに、実は、今の法律には一般的な規制法はありません。
約款は、沢山の人と契約するときに確かに便利なのですが、他方で、契約をしようとする私たち消費者の側は、会社側があらかじめ決めた約款の内容や条件を「呑むのか」「呑まないのか」しか選択する余地がないという状態になり(このような契約を「附合契約」と呼んでいます。)、仮に、約款の中に、自分に明らかに不利な条件が記載されていても、日常生活を送るうえで必要であれば「呑む」という選択をせざるを得ないという問題や、さらには、知らないうちに消費者の無知につけこんだ過酷な条件を押し付けられかねないといった問題もあります。実際、過去に、航空機事故が起きたときの乗客に対する賠償金の金額を上限100万円とした約款の規定がはたしてそのまま有効なのかが争われた裁判例があり、この裁判では、公序良俗違反(そのまま認めたのでは社会的にみていくらなんでもヒド過ぎる、という感じの意味です。)でその約款の規定が無効とされています。
近々改正されるであろう新しい民法には、この「約款」について、はじめて規定が置かれる見込みです。一定の要件を満たす定型性の高い約款を「定型約款」として、契約の内容となる効力を認めたうえで、不当な条項に対する規制などが行われるようになると思われます。
弁護士 仲世古善樹