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『どこで戦うか 裁判の戦場にはご注意を!』

弁護士ブログ

『どこで戦うか 裁判の戦場にはご注意を!』

弁護士 舛田 雅彦

私は企業からのご相談をいただく機会が多いのですが、顧問先などから契約書のチェックを求められることも少なくありません。

【契約は口約束でも成立しますが・・・】

一般の方はご存じないかもしれませんが、わが国では、一般的な契約は口約束でも成立する(一部、契約書などの形式が整っていないと契約が成立しない場合もあります。)というのが基本です。ただ、口約束だと、契約の細かな条件まで詰めて約束するということが事実上できませんし、後で「言った、言わない。」といった争いの元なので、そういうトラブルを防止するために契約書を作成することになります。

つまり、契約書は、契約内容を証明するための証拠書類としての意味で作成するものだというのが基本ということをまず覚えておいてください。

ですから、口約束でお金を貸してしまったけれども契約書がないから返してもらえないと諦める必要はありません。貸したことを証明する手段があれば返してもらえる可能性はありますので、あれこれ悩んでいて時効(一般の貸金の消滅時効は、返済を求めることができるときから10年となっています。)になってしまう前に、まずは弁護士に相談してみることをお勧めします。

【契約書によくある「管轄の合意」条項】

そんな契約書ですが、企業間の契約書では、最後の方に「管轄の合意」という条項が加えられることが一般的です。この条項を軽視すると後で不利な状況になってしまうことがあるので、今回はその説明をさせていただきます。

契約をする当事者は、契約書に調印する時点では契約相手を信用しており、後にトラブルが生じるとも思いたくないので、トラブルが生じる場合を想定して条項を詰めることに心理的な抵抗があるのではないかと思いますが、相談を受けた弁護士は、その契約から将来どのようなトラブルが生じる可能性があるか、そのトラブルの解決のために事前の取り決めがきちんとできているかといったことを考えながら、契約書の条項に漏れや自分の側の当事者に不利な条項が盛り込まれていないかをチェックします。

「管轄の合意」は、後々契約の当事者間で争いが生じたときに、どこの裁判所で裁判をするかをあらかじめ決めておくもので、「専属的合意管轄」の合意をすると、法律上別の裁判所に訴えを起こせることになっていたとしても、その合意に拘束されて、特定の裁判所にしか訴えを起こせないことになります。

通常、このような合意がない場合には、訴えは被告の住所地に起こすのが原則ですが、特別に「義務の履行地」という管轄もあります。例えば、損害賠償や貸金請求などの金銭的請求であれば、金銭債権は「持参債務」といって債権者のところにお金を持参して支払うのが原則なので、請求する側(債権者=原告)の住所地の裁判所に訴えを起こすこともできるのですが、「専属的合意管轄」があるとそうはいかないということになります。

通常、契約書は契約当事者のどちらか一方が作成して、もう一方はその契約書の内容を確認して修正点があればそこを指摘して修正してもらうなどして条項を詰めていきます。そのため、最初に契約書の原案を作る当事者は、自分に有利な条項を入れておいて相手方から何も言われなければそのまま契約を成立させてしまい、将来有利なポジションを得ようとすることがあります。

特に、契約の当事者が、一方は大手企業で他方が中小企業という場合には、大手企業の方が自社に有利な条項が盛り込まれた契約書を示して、その契約書からの変更に難色を示すことも少なくないのですが、契約書の条項の意味を良く分かっていないと、不利な条項と感じても修正を言い出しにくくて、モヤモヤした状態で契約書を受け入れてしまうということもあります。

【「専属的合意管轄」は危険】

このように一方的に契約を押し付けられる場合によくあるのが、大手企業の本店所在地を管轄する地方裁判所を「専属的合意管轄」とするという条項です。双方の本店が同じ裁判所の管轄内にあるのであれば何も問題はないのですが、例えば札幌の中小企業が東京本社の大手企業と取引をするために契約を締結して、その後にトラブルが生じてしまうと、札幌の企業が相手方を訴えたければ東京地裁に裁判を起こす必要があります。

そうなると、札幌の弁護士に事件を依頼すれば、期日のたびに弁護士が出頭すれば少なくない金額の旅費・日当が必要になります。(最近では、電話会議等の方法で出頭のコスト低減が図れますが、それでも、何回かは実際に足を運ぶ必要があります。)東京の弁護士に事件を依頼したくても、打合せのためのコストもありますので、地元の裁判所に訴えを起こすのと比較すると格段に不利な立場で戦う必要があるのです。

そのため、弁護士は、遠方の相手と裁判しなければならないときには裁判管轄に注意をするのですが、それが、契約書で不利な「専属的合意管轄」が決まっていると、コストとの兼ね合いで請求を諦めざるを得ないこともあるのです。

【大きな契約をするときは弁護士に契約書のチェックを受けましょう】

そんな事態もあり得るので、契約書を取り交わすときには「管轄の合意」にも注意を払っていただくことをお勧めします。また、そのほかにも契約書の条項に不利な内容が盛り込まれている可能性もありますので、大きな契約をする場合には、契約書の内容を弁護士にチェックしてもらうようにした方が良いでしょうね。

弁護士 舛田 雅彦
弁護士 舛田 雅彦

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