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賃借人が連帯保証人を立てない場合の賃貸借契約解除の可否

弁護士ブログ

賃借人が連帯保証人を立てない場合の賃貸借契約解除の可否

弁護士 野谷 聡子

【相談事例】

私は居住用賃貸物件のオーナーです。先日、Aから新たな賃貸の申し込みがありました。私は、Aが連帯保証人予定者Bに会いに行き、賃貸借契約書の連帯保証人欄に署名押印をもらってくると言うので、このAの言葉を信頼して賃貸借契約書をAに渡しました。その後、Aが、まだBには会えていないが、敷金と前家賃を払うので先に鍵をくれないかと言うので、私はBもまもなく賃貸借契約書に署名押印してくれるだろうと思い、Aから敷金と前家賃を受領したうえで、Aに鍵を渡して居室の使用を了承しました。

しかし、その後、私が何度督促しても、Aは一向にBの署名押印のある賃貸借契約書を持って来ず、半年が経ってしまいました。このまま連帯保証人がいないのは不安なので賃貸借契約を解除したいのですが、解除できるのでしょうか。

1 賃貸借契約と連帯保証契約

通常、賃貸人は賃貸借契約の締結に際し、賃借人(賃貸借申込者)に対し、連帯保証人を立てることを求めます(最近では保証会社の利用も増えています。)。不動産(土地・建物)の賃貸借契約書には、「連帯保証人は、乙(賃借人)と連帯して、本賃貸借契約から生じる乙の甲(賃貸人)に対する債務を負担する。」といった条項と、末尾には、賃貸人・賃借人の署名押印欄に加え、連帯保証人の署名押印欄があります。この賃貸借契約の内容を確認のうえ、連帯保証することを書面で承諾した人(連帯保証人)は、賃借人が賃貸借契約に基づいて負担する賃料支払義務や共益費支払義務、原状回復義務、建物明渡義務などのあらゆる債務を賃借人と同様に負うことになります。そのため、例えば、賃貸人は、賃借人が賃料を支払わない場合には、連帯保証人に対し、賃借人に対して請求するのと同じように、当該賃料を払うよう請求することができます。

2 賃貸借契約の解除

不動産の賃貸借は、それが住宅であれば生活の基盤であり、店舗であれば事業の基盤であって、いずれも、一定期間、継続することを前提としていますから、些細な契約違反だけで、いきなり契約を解除されては堪ったものではありません。例えば、住宅の賃貸物件において、賃借人が、賃貸借契約で定められた使用ルールに違反して、1回だけベランダで煙草を吸ったとして、この契約違反を理由に、賃貸人から一方的に賃貸借契約を解除されたら、賃借人は、直ちにその物件から退去しなければならなくなり、新しい物件を探したり、引越費用を準備したり、引越のために仕事を休んだりしなければなりません。このように生活や事業の基盤を失うというのは大変なことなのです。そのため、賃貸借契約を解除できる場合というのは、些細な契約違反があっただけでは足りず、『賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊するような重大な契約違反』があった場合に限定されています。

3 裁判例

では、賃借人が、賃貸借契約の締結にあたり賃貸人から求められていた連帯保証人を立てない場合、『賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊するような重大な契約違反』があったといえるのでしょうか。参考となる裁判例として、東京地方裁判所平成26年7月17日判決があります。

この判決は、一般に、連帯保証人の存在が賃借人の支払能力に対する不安の解消において重要な要素であることや、現に、本件の賃貸人は、賃借人の支払能力に疑問を持っており、連帯保証人がいなければ賃貸借契約はしなかったと認められることからすれば、賃借人が合理的期間内に連帯保証人を立てることは、本件賃貸借契約に基づく契約関係を継続していく上で不可欠の前提であったということができるとしました。そして、賃借人が、賃貸人からの督促にもかかわらず、6か月の間、連帯保証人を立てず、かつ、連帯保証人を立てるために真摯な努力をした形跡もないことは、本件賃貸借契約における賃貸人と賃借人との間の信頼関係を明らかに破壊する事実であるとして、賃貸人からの契約解除を認めました。

4 解除できる可能性がある

以上のような裁判例を参考に今回の相談事例について検討するならば、①賃貸人である相談者が、賃貸借契約を締結するにあたり、申込書に記載欄を設けるなどして賃貸借申込者や連帯保証人予定者の支払能力を検討していたか、その結果、②賃借人の支払能力に疑問や不安を持っていたか、③現に賃料の不払や遅れといった事態が生じていたか、④賃貸人が賃借人に対し、連帯保証人を立てるよう督促したか、⑤連帯保証人の不在が長期間に及んでいるか、⑥賃借人は連帯保証人を立てる真摯な努力をしたか、⑦賃貸人は連帯保証人がいなくとも賃貸借契約を締結していたといえるか、⑧賃貸人はこれまで連帯保証人のいない賃貸借契約を締結したことがあったか、などの事情が考慮要素となると考えられます。例えば、①~⑤について○、⑥~⑧について?という事案であれば、賃貸人は、賃借人が連帯保証人を立てないことを理由に、賃貸借契約を解除することが認められる可能性があるでしょう。

同様のことは、賃貸借契約の締結当時は連帯保証人がいたものの、その後、何らかの理由でいなくなってしまった場合(支払能力を失った場合を含む。)にも問題になります。

賃貸借契約と連帯保証契約でお悩みの方は、是非一度、当事務所までご相談ください。

20141202_01
弁護士 野谷 聡子

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