>
>
民法改正・解説コラム 第1回「時効制度の改正」

弁護士ブログ

民法改正・解説コラム 第1回「時効制度の改正」

弁護士 福田 直之

1 時効制度の改正について

今回の民法改正では、時効に関する規定に大きな変更がなされることになりました。今回は、債権等の「消滅時効」について取り上げて、身のまわりの生活等にどのような影響があるのかについてご説明をします。

2 消滅時効とは

消滅時効とは、一定の期間、その権利を行使しないと、その権利が消滅して請求をすることができなくなる制度です。飲み屋のツケは1年、広告などで見かける過払い金の返還は10年で時効などという話は聞いたことがあるかもしれません。これが「消滅時効」というものです。今回の改正は、その制度をわかりやすく、統一化しようということが1つのポイントです。

3 時効期間と起算点の原則的な考え方について

・現行法について

現行法では、権利を行使することができる時から10年と原則的に定めており、例外的に飲み屋のツケが1年、工事の請負代金が3年、商取引によって生じた債権は5年などと職業や取引内容によって個別に時効の期間が定められていました。

これに対しては、原則的に10年とするのは期間として長いのではないか、現代においては、このように取引別に異なった時効期間をもうけることの合理性はないのではないか、などという指摘もなされていました。

blog_20170614_01

・改正法について

改正法では、権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、または、権利を行使することができる時から10年間行使しないときのいずれか早く到達するときに時効によって消滅すると改められることになりました。

これに伴い、現行民法170条以下で定められていた取引別に定められていた短期消滅時効、商法522条に定められていた商事消滅時効が廃止されることとなり、消滅時効制度の時効期間と起算点の原則的な考え方が統一されることになりました。

blog_20170614_02

・改正の影響

消滅時効の原則的な考え方が統一されることにより、たくさんの種類、数の債権を管理する企業の方にとっては、債権の管理等が簡便になる点はあろうかと思います。

一方で、友人にお金を貸して、返済する約束の日になっても返してもらえない、といったような場合、現行法では、約束の日から10年経過した時点で完成する消滅時効が、改正法では5年で完成することになり、短縮されることになりますので、このような場合には注意が必要です。

 

4 不法行為、生命・身体の侵害による損害賠償請求権について

・現行法について

現行は、不法行為に基づく損害賠償請求権について、損害及び加害者を知った時から3年間行使をしないときは、時効によって消滅する、不法行為の時から20年を経過したときも同様とする、と規定されています。

また、生命・身体の侵害による損害賠償請求権については、不法行為に基づく場合も、債務不履行に基づく場合も特別な規定はなく、いずれも原則通りの規定に基づいて取り扱われておりました。

その結果、生命・身体の侵害による損害賠償請求権を債務不履行に基づいて行使した場合には、一般の債権の消滅時効と同様、権利を行使することができる時から10年で消滅時効が完成すると考えられており、不法行為に基づいて請求をするか、債務不履行に基づいて請求するかで消滅時効に関する考え方が異なっておりました。

blog_20170614_03

・改正法について

原則的な不法行為に基づく損害賠償請求権についての時効期間、起算点には変更はありませんが、生命・身体の侵害による損害賠償請求権は、生命身体が保護する必要性の高い権利であることから、財産権等の侵害などによる他の損害賠償請求権とは異なる取扱いをすることとし、特例として、損害及び加害者を知った時から5年間行使しないときは時効によって消滅すると改められ、時効期間が延長されることになりました。

また、生命・身体の侵害による損害賠償請求権を債務不履行に基づき行使する場合においても、権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、または、権利を行使することができる時から20年間行使しないときのいずれか早く到達するときに時効によって消滅すると改められることになりました。

その結果、生命・身体の侵害による損害賠償請求権は、不法行為に基づく場合においても、債務不履行に基づく場合においても時効期間が一致することになりました。

blog_20170614_04

・改正の影響

交通事故による人身損害の損害賠償請求権などは、現在3年とされている時効期間が5年と延長されることになりますので、被害者側から見れば権利の保護がなされることになります。

一方で、例えば、労働災害事故により人身損害が発生した事案において、労働者本人、遺族等が雇用主に対して、雇用契約に基づく安全配慮義務違反により損害賠償請求をした場合など、何らかの契約関係に基づく債務不履行による損害賠償請求権として請求する場合においては、権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないときに消滅時効が完成することになり、この点においては現行法より短縮されることになりますので、このような債権については時効の管理に十分な注意が必要です。

5 時効の更新と完成猶予について

・現行法について

現行法においては、時効の成立を阻止する制度として、「中断」と「停止」という規定を定めておりました。「中断」とは、民法で定める中断事由が時効の完成前に発生した場合には、時効期間を一旦リセットしてゼロにするものであり、「停止」とは、停止事由が発生した場合、リセットせずに一定期間時効の完成を猶予するものでした。

しかしながら、これらの規定は、用語としてもその差がわかりにくく、規定上も、例えば、現行民法147条1号において「請求」は時効の中断事由となっているものの、同153条において、「催告」(裁判外での「請求」)は、6カ月以内に裁判上の請求等をしなければ、時効の中断の効力は生じないと定めるなど、中断はするが効力が生じない場合があると規定しているなど一般的に理解しにくいものでありました。

blog_20170614_05

・改正法について

現行法でわかりにくかった「中断」、「停止」をそれぞれ「更新」と「完成猶予」として再構成して用語の整理がなされました。

また、更新、完成猶予という事由ごとに規定を編成するのではなく、生じた事態の類型ごとに規定を編成し、その点でもわかりやすくなりました。

例えば、裁判上の請求等については、その手続きが終了するまでの間は、時効の完成が猶予され、権利が確定せずに終了した場合においても終了から6カ月間は時効の完成が猶予され、判決等で権利が確定した場合には、時効の更新がなされるなどと規定されています。

また、大きな変更点として、協議による時効の完成猶予の規定が新設されました。争いとなっている権利について、当事者双方において協議を行う旨の合意を書面でした場合には、合意があったときから1年間は時効の完成を猶予することができ、合意の更新も最長で5年までできることになりました。

blog_20170614_06

・改正の影響

これまでは、当事者間で真摯に協議をしている最中でも、消滅時効は進行し、消滅時効の完成を回避するための便宜上、訴訟等の法的措置を講じなければならないような場合もありました。

そのような迂遠な手続きから解放され、当事者間での協議による紛争解決がより望めるようになる一方、合意は書面で行わなければならないとされており、この点においては厳格でありますし、消滅時効完成を回避するため、債権者側から強引に合意の書面の作成を求められるケースなども考えられ、そこで新たな紛争が生じる可能性もあります。

6 経過措置について

このように、消滅時効の制度について大きな変更がありますが、法律が施行される日より前に生じた債権については、現行の民法の適用がなされることになりますので、あくまでも改正の民法が施行された日以降に発生した債権について適用がなされます。

但し、不法行為に基づく生命身体の侵害による損害賠償請求権については、法律が施行される時点において消滅時効が完成していない場合には、改正の民 法が適用されるということになっており、3年から5年に消滅時効が延長されるケースもあります。

7 まとめ

消滅時効の制度がある程度統一化され、あらゆる種類、内容の債権を取り扱っている企業、法人等からみれば、消滅時効の管理が簡便になり、短期消滅時効として定められていた債権については、時効期間が延長になるなど、この点においては有利になる面もあります。

一方で、消滅時効の期間に変更があることにより、取引に関連する資料等の保存期間の見直しなどのほか、当事者間の協議による時効の完成猶予の規定が新設されるなど、より当事者で消滅時効の管理等を行う必要が生じますので、債権管理の在り方を今一度大きく見直しをする必要性があります。

また、個人の方でも、消滅時効が従前の取扱いと変更されることになり、場合によっては、従前より短期間で消滅時効が完成するケースも出てくるなど、感覚的に債権の管理をしていれば、気が付かないうちに自らの権利が消滅しているということもあり得ます。

そして、民法の改正に伴い、製造物責任法、不正競争防止法などの法律の消滅時効の規定も改定になりました。一方、労働基準法の賃金債権の消滅時効についての規定は改定されず2年間のままです。このように法律によってばらつきはありますので、その点は注意が必要です。

今回の法改正は、消滅時効の点以外にも、企業、法人等の方のみならず、個人の方にも大きな影響がある問題がたくさんあります。

今後継続するこのコラムをきっかけに、法改正について興味を持って広く知っていただければと思います。

弁護士 福田直之

弁護士 福田 直之

ページトップへ戻る