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『瑕疵』?『イチャモン』?
弁護士 田代 耕平
今回は、建築『瑕疵』についてお話しさせて頂きたいと思います。建設関係者にはなじみが深く怖い『瑕疵』(かし)ですが、一般の方は『瑕疵』といっても読めない方も多いのではないかと思います。
しかし、『瑕疵』は読めるだけでは意味がありません。『瑕疵』とは何なのかについて理解する必要があります。それと同時に『瑕疵』の何が怖いのかを考えてみましょう。
建築(請負契約)に関する『瑕疵』の概念はなかなか難しいものです。何が『瑕疵』なのか?ただのイチャモンなのか?少し整理してみたいと思います。
建築『瑕疵』とは、(争いがありますが)契約で完成を求められた建物が通常有すべき性質・性能を有さないことなどと言われますが、よくわかりませんね。平たく言うと施主と施工会社が想定していた性質・性能を有さない場合が瑕疵にあたることになります。
『瑕疵』の類型としては①法規違反型②約定性能違反型③約定仕様違反型④美観損傷型の4類型がよく言われていますが、建築基準法に違反しないことは契約書に記載しなくても当事者間で当然前提にされていることでしょうし、約定(やくじょう)の性能・仕様に反するものは当事者の想定しないものであって瑕疵に該当します。もっとも、紛争では当事者間で明確な合意がなく、どのような性質・性能を想定したのかが問題となることもありますが、代金の金額や社会通念などで黙示の合意が認められます。
瑕疵の怖い点の1つが、上記の通り瑕疵の概念に当事者の黙示の合意とか社会通念とか不明確な基準で判断される点があると思います。美観損傷型(クロスのむらとか)なんて主観的な部分が多く判断が極めて難しいです。
次に、建築瑕疵は、高額な物件も多いため当事者が感情的になりやすいという点も怖さの一つかもしれません。特に住宅は、一生に一度の買い物なので買主が本当に病んでしまうこともあります。注意は、瑕疵の現象(雨漏り・結露など)と原因(外壁のひびなど)を分けて考える必要があることです。建築瑕疵は、現象ではなく原因なのですがどうしても現象面に目がいってしまいます。訴訟では、建物の瑕疵である原因を特定しないで現象である雨漏りがするから賠償金を払えというだけでは負けてしまいます。
最後に、瑕疵があった場合には発注者から修繕を要求される点があります。実務的には、施工会社にとっては他社見積の修繕費用を支払うよりも安上がりなのでよく行われています。法律上も瑕疵修補請求権があります(民法634条)。困るのは、どこまで直せばいいのかという点と直すのに莫大な費用が発生するようなケースにも応じなければならないのかという点です。前者の部分はケースバイケースですが、例えば、鉄筋のかぶり厚さ不足の際に必ずしもすべてをやり直す必要はなく、かぶり厚さ不足は解消しなくても性能の低下を補える補修で足りることもあります。後者の点は、軽微な瑕疵で修繕に莫大な費用が発生するときには修繕の請求はできないことになっています(民法634条1項但書、もっとも、損害賠償請求は残ります)。
やっぱり、瑕疵は難しい概念かもしれません。次回は、瑕疵担保責任の責任の内容についてお話ししたいと思います。
本コラムは平成29年9月9日の北海道建設新聞に『弁護士田代耕平の独り言⑲』として掲載されています。
弁護士 田代 耕平