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送り付け商法の対処法

弁護士ブログ

送り付け商法の対処法

先日の報道によると、消費生活センターに寄せられた「送り付け商法」に関する相談が6年ぶりに増加したのだそうです。「送り付け商法」とは、消費者が頼んでもいないのに、事業者が一方的に商品を送り付けて、その代金を請求するというものです。昔からある手法であり、送り付け商法自体が直ちに法律に違反するわけではありません。しかし、個人情報の流出が大きな社会問題となっているなか、売買された個人情報が送り付け商法に利用されることも考えられ、消費生活センターの相談傾向からすると、最近では、送り付け商法に困惑し不安を感じている方も少なくないようです。そこで、今回は、「送り付け商法」について、相談事例をもとにお話ししたいと思います。

【相談事例】

先日、一人暮らしの母の家を訪ねたところ、小さなダンボールが未開封のまま玄関先に置かれていました。ダンボールの側面の記載をみると、どうやら健康食品のようです。母に確認したところ、昨日届いたのだが、頼んだ覚えはない、とのこと。頼んだ覚えはないのにどうして受け取ったの?と聞きましたが、母は、最近、物忘れが多いので、自分でも頼んで忘れたのかもしれないと思い、とりあえず受け取ったが、よく考えてみると、やはり頼んでいない、送ってきた業者のこともまったく知らない、受け取ってしまってどうしたらいいか分からず、そのままにしている、と言うのです。ダンボールを開けたところ、中には健康食品と一緒に代金3000円の請求書と振込用紙が入っていました。商品を受け取ってしまった以上、母はこの代金を支払わなければならないのでしょうか。あるいは、商品を送り返さなければならないのでしょうか。

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1. 受け取っただけなら代金は支払わなくてよい

相談者のお母様が健康食品を送ってきた業者に対し、代金を支払う義務を負うのは、お母様と業者との間で、健康食品に関する売買契約が成立した場合です。では、今回の相談事例では、売買契約は成立したといえるのでしょうか。

契約とは、平たく言えば『約束』『合意』です。売買であれば、売主の「この商品を●●円で売ります(買いませんか)」【申込】という意思と、買主の「この商品を●●円で買います」【承諾】という意思が合致して初めて契約は成立します。この契約が成立すると、売主は買主に対し、商品を引き渡す義務を負い、買主は売主に対し、代金を支払う義務を負うことになります。

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相談事例では、業者は相談者のお母様に対し、健康食品と一緒に3000円の請求書と振込用紙を送付していますから、これは「この商品を3000円で買いませんか」という【申込】にあたります。これに対し、健康食品を受け取るだけでは「この商品を3000円で買います」という【承諾】にはあたりません。相談者のお母様は、うっかり健康食品を受け取ってしまいましたが、それ以上のことはしていないので、未だ、業者とお母様との間で健康食品に関する売買契約は成立していないのです。 契約が成立していない以上、お母様は業者に対し、代金を払う必要はありません。

2. 食べてしまったら?

では、どういうことをすると相談者のお母様は代金を支払わなくてはならなくなるのでしょうか。それは売買契約が成立する場合ですから、業者の【申込】に対し、お母様が【承諾】と評価される行為をした場合ということになります。

【承諾】の典型は、売主に対し「買います」という連絡をすることですが、それ以外にも、送られてきた商品を使ったり、食べたりすると、【承諾】したものと評価される可能性があります。また、代金を払う行為も【承諾】と評価される可能性があります。

業者によっては、「商品が返送されない場合は、契約は成立したものと見做します。」といった説明文を同封してくる例もあるようですが、そのような文書が入っていたとしても、返送しないことは【承諾】にはあたりません。

3. 返送しなければならないのか?

相談者のお母様は代金を払わなくてもよいとしても、送られてきた商品はどうすればいいのでしょうか。

業者とお母様との間に商品に関する売買契約が成立していない(お母様が商品を買っていない)以上、その商品は業者のもの(所有物)です。原則として、他人の所有物を勝手に処分することはできませんが、だからといって、一方的に商品を送り付けられた相談者のお母様が、商品をいつまでも保管しておかなければならなかったり、自分の費用で業者に返送しなければならないとするのでは、大きな負担となり相当ではありません。そこで、特定商取引に関する法律(特定商取引法)59条1項は、送り付け商法により送られてきた商品の取り扱い方法について、以下のように定めています。

1つ目の方法は、売買契約に基づかずに商品が送られてきた場合に、売買の申込を承諾することなく、商品が届いた日から14日間保管し、その間に業者が商品を引き取りに来なければ処分してよい、というものです。もう1つの方法は、商品を送り付けてきた業者に連絡して、引き取りに来るよう要求し、それから7日間保管しても引き取りに来なかった場合には処分してよい、というものです。なお、このときの保管方法は、自分の持ち物に対するのと同じだけの注意をもって保管すれば足ります。

このように、商品を受け取った相談者のお母様は、一定の期間、業者が引き取りに来るのを待っていればいいので、お母様の費用で商品を返送する必要もありません。保管することも不安だという場合は、送ってきた業者宛に着払いで返送するといいでしょう。

最近では、相談事例のような単純な送り付け商法だけでなく、違法な商品を送り付けたり、商品に見合わない高額な代金を請求するといった詐欺的な送り付け商法の被害も報告されています。頼んでいないはずの商品が届いて不安に感じた場合には、一人で判断して代金を支払ってしまわずに、当事務所にご相談ください。

弁護士 野谷 聡子

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